YS BLADES-山一ハガネのモノづくり


金属加工工場『AEROV(エアロフ)』
山一ハガネの金属加工工場『AEROV』。
従来、自動車産業の金型部品を中心に、ミクロン単位の精度と品質保証が求められるモノづくりを担ってきた工場だ。
AEROVでは、恒温・湿度管理・クリーン環境の中で、YASDA社やHERMLE社などのハイエンド工作機械を稼働させ、限界精度を追求しお客様の要求に応えている。
その品質思想が、フィギュアスケート用ブレード『YS BLADES』のモノづくりにも活かされている。


山一ハガネの金属加工工場AEROV
山一ハガネのモノづくりとは?
「モノづくりって、お客さんのためにやっているかどうか、そこだと思うんです。」
石川が語る山一ハガネのモノづくりの出発点にあるのは、いつも“使い手”だ。
YS BLADESであっても、自動車用の金型部品であっても、石川の考え方は一貫している。
「モノづくりとは『使い手が道具に不安を感じることなく、自分のやりたいことに集中できる状態をつくること』だと私は考えています。」
道具が主役ではなく、主役はあくまでそれを使う“人”だ。
例えば、YS BLADESであれば、ジャンプの瞬間に「折れないだろうか」「曲がらないだろうか」と余計なことを考えず、演技に集中できること。
金型部品であれば、図面指示通り誤差なく加工し、現場で安心して使っていただけること。
そうした状態をつくるために、製品には“当たり前に機能すること”が求められる。

ハイエンド5軸加工機での加工も、すべてはお客様に安心して使っていただくため
「すごいモノを作りたい、という話じゃないんです。使う人が困らないか、不安を感じないか。それが一番大事です」
フィギュアスケート用ブレードにおいては、その考え方が最もシビアな形で問われたのが、『4回転時代』の到来だった。
競技の進化がモノづくりに問いかけたもの
フィギュアスケートにおいて、ジャンプの多回転化は競技の進化そのものだ。
4回転ジャンプが当たり前になったことで、選手の演技レベルは大きく引き上げられた。
一方で、その進化は道具(ブレード)にも変化を求めることになる。
従来のブレードは、3回転ジャンプが主流だった時代の中でつくられていた。
そのため、4回転ジャンプで繰り返し大きな負荷がかかるようになると、次第に無視できない問題が顕在化した。
「折れる」「曲がる」。
特に男子選手を中心に、こうした問題が起きるようになった。
これは選手にとって不安を抱えながら演技をすることを意味する。

従来のブレードは“溶接”でできており、4回転時代で課題が顕在化
ジャンプの踏み切りや着氷の瞬間に、「大丈夫だろうか」と一瞬でも意識が向けば、本来のパフォーマンスを発揮できない。
4回転時代に求められたのは、『より高く跳べる』や『記録を伸ばす』ではなく、『選手が安心して本来のパフォーマンスを発揮できる』ことだった。
その要求に応えるため、石川が選択したのは『現場と向き合う』ことだった。


世界で唯一の“削り出し”で強度が3倍のYS BLADES。選手はパフォーマンスに集中できる
モノづくりで大切なのは “現地” “現物” “現場”
モノづくりの現場では、寸法精度などの数値が重要な指標になる。
しかし石川は、すべてが数値で説明できるわけではないことも強く意識している。
YS BLADESの場合、選手から返ってくるフィードバックは、必ずしも明確な数値ではない。
「スピンがしにくい気がする」
「踏み切りの感覚が少し違う」
そんな、感覚的な言葉で語られることも少なくないという。
こうした声に対して、石川はすぐに数値や理論で答えを出そうとはせず、まず行うのは“現場を見る”ことだ。
実際にリンクに足を運び、選手の動きを目で見て、何が起きているのかを自分なりに理解する。
「机上で話を聞いているだけでは正直わからないことも多く、実際に現場を見ると『ああ、こういうことか』と腑に落ちることも多いんです。どんなモノづくりでも、大切なのは“現地”“現物”“現場”だと私は考えています。」
そして、現場と向き合った先に、もう一段階モノづくりとして越えなければならない領域がある。

現場が大切と語る石川は、その言葉通り頻繁に現場へ立つ
同じものを作り続ける難しさ
モノづくりの現場では“高精度”という言葉がよく使われるが、精度を出すことだけがゴールではない。
本当に大事なことは「同じ品質のものを、同じ状態で作り続けること」だ。
ブレードの場合、選手にとって道具の変化は大きなリスクになる。
わずかな違いであっても感覚が狂えばパフォーマンスに影響するため、選手は「常に同じもの」を求める。
金属加工の現場では、温度や湿度、加工条件、使用する工具など、精度に影響を与える要素が数多く存在する。
そうした要素をどれだけ把握し、コントロールできるか。
そこに加工の難しさがあるが、同時にその積み重ねの中で、独自のノウハウも蓄積されていく。

日々の地道な積み重ねがノウハウに繋がる
環境や設備は、投資によって整えることもできる。
しかし、各種工作機械の特性を理解したうえで加工条件をどうするか、どの工具をどう使うか、といった部分は、日々の積み重ねの中でしか磨かれない。
AEROVが高精度なモノづくりを続けられる理由は、そうした“人”と“工具”に紐づくノウハウを、現場の中に蓄積してきたことにある。

山一ハガネは自社工具ブランド「RIDGELINE TOOL」を展開し、工具のノウハウも豊富に持つ
「一つひとつは小さな調整かもしれません。しかし、その積み重ねこそが、数値だけでは拾いきれない品質のズレを、少しずつ埋めていくのです。」
同じものを作り続けるという行為は、一見地味でありながら高度なモノづくりなのだ。
目新しさや派手さよりも、昨日と同じ品質を、今日も当たり前に届けること。
それができて初めて、使い手は道具を信頼することができる。
そして、その信頼があってこそ、
選手は演技に
製造現場は仕事に
集中することができる。
その難しさと向き合い続けることこそが、モノづくりの核心と言える。
高品質なモノづくりを支えるAEROVの環境と設備
こうしたモノづくりを日常的に支えているのが、自動車産業向けの金型部品加工を主業としてきたAEROVの環境と設備だ。
自動車産業では、金型部品のミクロン単位の誤差が、製品全体の品質や量産時の安定性に直結する。
だからこそ、環境や設備を含めた“ブレないモノづくり”が求められている。
①ISO17025認証の測定体制
AEROVは、ISO17025認証された計測技術室を持つ、国内では数少ない工場だ。
ISO17025は、試験所・校正機関に求められる測定能力の国際規格で、測定機の精度だけでなく、測定手順や管理体制まで含めて、測定結果の信頼性を第三者が認証。
山一ハガネでは、高精度な測定機と恒温環境を整えたうえで、寸法証明書を提供している。
「信頼できる測定があるからこそ高精度加工ができる」それがAEROVのコンセプトだ。

山一ハガネのISO17025認定証

計測技術室には国内では希少な超大型測定機『Leitz PMM-G』を保有し超大物測定も対応
②恒温・湿度管理・クリーン環境
金属加工は、気温や湿度といった環境変化の影響を受けやすい。
AEROVでは、恒温・湿度管理され、さらにはクリーンな環境を整えることで、外的要因による寸法精度のブレを最小限に抑えている。



通年で恒温・湿度管理しクリーン、すべては精度のためだ
最高水準の加工設備
AEROVには、工作機械のF1とも呼ばれるYASDA社やHERMLE社をはじめとする高精度加工機を多数導入している。
これは、限界精度を追い求めるだけでなく、高い精度を安定して出し続けるために必要な設備だ。
2012年のAEROV竣工当時、持っていること自体が珍しかった5軸加工機をいち早く導入し、10年以上にわたって蓄積してきた加工ノウハウが高精度加工の基盤となっている。


さながら“YASDAのショールーム”と呼ばれることもあるAEROVの設備
YS BLADESのデザインにも表れたモノづくりの思想
YS BLADESでは、そのデザインにも山一ハガネのモノづくり思想が表れている。
YS BLADESは、世界で唯一の“削り出し”による一体構造を採用し、他に類を見ない強度を実現しているが、さらにブレードの長さや支点の位置を工夫することで、ジャンプ時にかかる荷重が一点に集中しにくい設計をしている。

YS BLADES『藍』
こうした設計は、耐久性を高めるだけでなく、演技中の安定感にもつながる。
YS BLADESが目指しているのは、“性能を追求した結果として生まれる美しさ”だ。
機能と構造に真剣に向き合い続けた先に自然と立ち上がる形こそがYS BLADESのデザインと言え、山一ハガネらしいモノづくりのカタチだ。

YS BLADES『翔』
「“性能を追求することで自然に生まれる美しさ”という考え方に基づき、選手たちの表現力を後押しできれば良いなと思っています」
AEROVにとってYS BLADESとは
YS BLADESは、AEROVが長年、自動車産業の現場で向き合ってきたモノづくりの考え方を、分かりやすい形で示す存在だ。
使い手の不安をなくすこと。
道具に意識を奪われることなく、本来やるべきことに集中できる状態をつくること。
その考え方は、フィギュアスケートという極めてシビアな世界においても、変わることはなかった。

YS BLADES専用治具で量産性も向上。これも自動車産業のモノづくりが活きている
トップ選手ほど、わずかな違いを見逃さない。
だからこそ、そこで通用するモノづくりは、決して偶然では成り立たない。
変わらない品質を、変わらず届け続けること。
YS BLADESは、その姿勢が世界最高の競技環境下でも通用することを示した。
一方でAEROVは、日常的には自動車産業向けの金型部品加工を主業としている。
そこでも求められているのは、図面通りの寸法精度を、安定して提供し続けることだ。

図面通りの寸法精度を安定して提供し続けることがAEROVの使命
フィギュアスケートという極限の世界で試されたYS BLADESのモノづくりは、AEROVが自動車産業の現場で日々向き合ってきた品質思想があってはじめて成り立っている。
YS BLADESは、AEROVにとって特別な挑戦であると同時に、自動車産業のモノづくりにおいて、どのような姿勢で品質と向き合っている工場なのかを示す、ひとつの答えなのだ。
「使う人が安心して本来の仕事に集中できるものを、高い再現性と満足いただける品質で届け続ける。それが、AEROVのモノづくりだと思っています。」
山一ハガネはこれからも、あらゆる分野において、求められる品質のその先へ挑み続けていく。

お客様に満足いただけるモノづくりを続けていく



